日本マーケティング・サイエンス学会 設立の趣旨 1966年10月
近代科学は、その領域・思想・形態において、はげしい革新の波を受けつつある。事実境界領域とよばれる分野の開拓と新しい論理システム導入とを媒介として、新しい科学の分野が誕生してきている。そしてこの場合の大きな特質の1つは、2つ以上の学問分野からの混成的接近という点である。このような形での接近としては、すでに19世紀後半には物理化学の出現があり、20世紀全般には社会心理学の展開がある。そして20世紀後半の代表的な混成的接近の場として、経営科学および情報科学があり、さらにまた新しい衣をまとった行動科学をあげることができる。
この混成的接近の基盤は、異なった学問分野における概念および方法論の間の類似性にある。たとえば、均衡と成長とは、近代経済学での中心概念となっているが、もともと前者は力学に、後者は数理生物学における基本概念である。
科学的研究のこのような視点に立って最近のマーケティング論の発展を展望すると、ここでも経済学、経営学、統計学、社会学、心理学等の最近におけるいちじるしい進歩を反映して、各種の研究成果が累積され、科学としての新たなる段階に到達してきている。そして、情報、意思決定、行動、システム等の諸概念は、社会的組織体における基本概念であるが、同時これらはマーケティング論の新しい展開においても、積極的な貢献を果たしている。
この線に沿っての研究をさらにすすめ、現代マーケティング論の飛躍的な発展をはかるためには、上述のような旧来の関連学問分野を基盤にするばかりでなく、経営科学、行動科学、情報科学のような現在急速に進歩しつつある新しい学問分野との積極的連繋をはかり、いわゆる多分野的な接近による効果を期待しなければならない。
一方、現代社会における流通、消費の高度化と複雑化とは、マーケティング活動をめぐる諸問題に対する従来の散発的接近のレベルを超え、総合的、システム的接近を行うことを要請している。そしてそのような接近は、大規模な実験・調査を基盤とする科学的研究を主軸とするものでなければならない。それによってはじめて、今日の複雑なマーケティング領域における積極的理論の構築を期待することができるのである。
このような事態にかんがみ、われわれはここにマーケティング理論の研究者およびそれに積極的に関心を持つ関連諸分野の研究者からなる研究組織を編成し、明確な目的意識と方法論とをもって、マーケティング・サイエンスの確立をはかることを意図して、日本マーケティング・サイエンス学会を設立した。この学会は、高度に組織化された研究チームによるプロジェクト研究を中心にした1つの研究機関としての役割を果たすことを期するものである。